主な主張
主な理由
- LNGは爆発の可能性がある。
- その爆発力は原水爆を凌駕する。
目的
「科学正論:そのために,今,力をいれるべき所は国際開発,原子力の推進,生命/情報科学技術の進歩である.」で原子力の推進に関して述べた。
原子力に関して福島の事故で取り沙汰され,
推進反対の意見も多く出されることも多いため,
このページで詳しく述べ,原子力推進の必要性を説明したいと思う。
内容
天然ガスの利用が進められているが
天然ガスは,地下から得られる主にメタンからなるガスである。
燃焼しても石炭と異なり灰は発生しない。
また,石炭・石油に比べて硫黄成分を含まないため,
SOxの排出量が少なく,大気汚染による公害を引き起こす可能性が少ない。
地球温暖化の原因となるCO2の発電時の発生量も少ない。
それは,分子を構成する水素が炭素に比べて多く,
同じ熱量を生み出すための発生量が少ない,
また,コンバインドサイクルにより熱効率60%程度の発電が可能であるため,
電気エネルギーを得るための発生量がさらに少なくなる。
CO2に関しては,井戸から噴出する時にCO2を同時に噴出する。
噴出する量は井戸によって異なり,噴出するガスの20%〜50%がCO2と言われている。
それを計算に入れても,石油火力の2/3程度の排出量になる
(ちなみに,原子力は石油火力の3%程度の発生量)。
大気汚染に関しては,天然ガス発電でもNOxの問題は残っている。
基本的に高温で燃焼させれば,
空気中の窒素と酸素が結びついて,光化学スモッグの原因となるNOxが発生する。
NOxは脱硝装置で取り除いているが,90%程度除去率であるから,
発生したNOxの10%は排出されることにになる。
排気ガスをほとんど発生しない原子力発電よりは環境負荷は大きいが,
少なくとも石炭火力発電よりは環境負荷が少ないと考えられている。
天然ガスのエネルギー
天然ガスの燃焼による発熱エネルギーは,およそ13.3cal/g(Wikipedia)である。
TNT(火薬)の発熱エネルギーは,1.02 kcal/g(化学大辞典(東京化学同人))である。
従って,天然ガスの発熱エネルギーは,TNTの13倍程度である。
天然ガスの方が高い理由は,TNTは自身が酸化剤を抱えていなくてはいけないのに対して,
天然ガスは空気中の酸素を使うからである
軍事面で燃料のこの特性を利用したものが燃料気化爆弾で,
同じ爆弾の質量で火薬を使うよりも大きな爆発エネルギーを得ることができる。
川崎市扇島には,液化天然ガス(LNG)の20万m^3タンクが3個ある。
LNGの比重は0.5程度であるので,20万m^3のLNGは10万トンになる。
それが全量爆発するとすれば,1.3M(メガ)トンのTNTと同じ爆発エネルギーとなる。
それは,広島で爆発した原子爆弾の爆発量(TNT15kトン)の86倍である。
逆に言えば1.2%爆発するだけで,広島の原爆爆発量と同じになる。
これが,扇島だけで3セットあることになる。
また,LNGタンクが東京湾にどれだけあるかと言えば(Wikipedia),
根岸125万m^3,扇島60万m^3,東扇島54万m^3,袖ヶ浦280万m^3,富津86万m^3ある。
合計すれば,605万m^3,すなわち300万トン,
爆発量に換算すればTNT40Mトンで広島の原爆の2,660倍のエネルギーになる。
タンクの他にも,LNGタンカーは大量のLNGを運んでいる。
たとえば,三菱重工のさやりんごは,4.5万m^3のタンクを4つ積載している。
従って,タンク1つあたりLNG22.5kトンとなり,TNT換算では300kトンであり,
広島の原爆20発分のエネルギーがある。
事故は起きるか
エネルギーが大きくても,実際爆発事故が起きる可能性があるかどうかは別問題である。
石炭ならば燃えることがあっても爆発することはないし,水をかけることによって消すことができる。
過去の大きなガス爆発の例を見てみると,次のような事故が検索にかかる。
LNGの場合,1949年10月20日オハイオ州で130名が亡くなっている [1]。
1973年3月26日は,40人の方がStaten Islandが死亡している [2]。
成分が違うが燃焼性ガスという意味では,
液化石油ガス(LPG)の爆発で1984年11月19日メキシコシティーで約500名の方が亡くなっている。
文献[4]では,LNGタンカーの25,000m^3のタンクが一つ壊れて海に流れ出す想定に対して計算例を紹介している。
組成によって物理パラメータが異なるが,ここでは比重を0.45とし,気化すると体積が600倍としている。
- 流れ出したLNGが蒸発する時間と,初期プルームの大きさの計算結果は以下のとおりである。
計算者 | 蒸発時間(秒) | 直径(m) | 高さ(m) |
ラジ/カレルカール | 270 | 383 | 13.1 |
フェイ | 316 | 432 | 10.4 |
ホウルト(1) | 1390 | 956 | 2.1 |
ホウルト(2) | 242 | 378 | 13.4 |
オッターマン | 380 | 393 | 12.5 |
ムスカリ | 324 | 469 | 8.8 |
1万トン余のLNGはおよそ数分で蒸発する。 初めは空気の約1.5倍の比重であるので,上昇することなく広がって行く。
- 天然ガスは混合率5〜15%で可燃と言われる。平均濃度が約10%のとき,全体の約半分がこの濃度になる。
25,000klのLNGの場合,3億m^3の可然性ガスになる。さらに,大量の可燃性ガスの場合2.5%までは燃焼すると考えられている
(0.57%でも発火することが確認されている)。
- 初期プルームは風がある場合,風下に広がる。
最も広くなる場合に米国沿岸警備隊の計算結果は以下のとおりである。
濃度(%) | 風下に広がる長さ(km) |
5 | 26.2 |
2.5 | 39.3 |
幅の最も広い部分は数kmにおよんでいる。中都市一つを焼き払うのに十分な量である。
最近のLNGタンカーのタンクはこれよりも大きく,
扇島のLNGタンクは1つでこの8倍の容量を持っているということも思い出して欲しい。
文献[4]に書かれている,その他の内容を示す。
- サイエンスアプリケーション社(LNG基地が安全と主張するための計算)の計算例は次の通りである。
- 船が事故をおこした場合,90%のLNGが現場で燃焼し10%が広がる(必ず着火することとは限らないと思うが)。
- ガスは1.9km程度広がる。
- 平均で2500〜3000人が死亡する。
- 船の事故率は,一回の運航あたり1/4,687,500となる(以下が計算の仮定)。
- 一般的事故率:1/1250
- LNGタンカーは慎重でパイロットがいる:1/5
- 船体を貫通する確率:1/100
- タンクが壊れる確率:2/3
- 設計が違う:1/5
- 従って,事故は37,500年に1回で,死者数は0.1人/年以下であるので,安全である(という主張である)。
- 合州国連邦動力委員会(FPC)が,スタートン島のLNG設備でLNGを積載した「はしけ」(はしけのトン数の記載はなし)の事故を
計算した例では,死亡or重傷数は,平均42,000人である。
- LNG火災において厄介な所は,消火はできないことである。
消火すると天然ガスが広がるのでかえって危険になる。そこで燃やしつくすしかない。
- 東京電力が,直径5m,深さ60cm(実機の1/5000)のタンクで実験を行った(記載は日本語版のみ)。
そのとき,炎が数百m風であおられ風下に広がった。
- 12.5万トンのLNGタンクがガスは広がらないとして燃焼すると,
その輻射熱だけで,3km以内の木造住宅が発火し,重度の火傷をする。10km以内の人がで火傷をする。
実例,計算例から見て,大きな事故が起きないということは言えないと思う。
また,上の例では火傷による死亡しか考えていないが,不完全燃焼で一酸化炭素ガスが発生して,
それを吸った人が死亡することも考えられる。
0.15%で死亡する一酸化炭素であるが,通常野外の燃焼の場合はその影響をあまり考える必要はない。
しかし,ガスの量の桁が違うため考慮する必要があると思う。
そして,原子力発電所は岩盤の上にしか建てられないが,タンクは埋立地の上にできている。
大きな地震が起きて,人工島に地割れが生じてタンクが破損し,LNGが海に流出(海水がタンクに流入)する可能性もある。
また,タンカーならばテロも不可能とは言えない。
タンカーを乗っ取らなくても,大きめの船を乗っ取って,
接岸しているタンカーに衝突させることもできる。
まとめ
エネルギーに危険は付き物である。
歩いて人にぶつかってもそれ自体は大したことはないかもしれないが,
ころんで位置エネルギーが頭に加われば死亡するし,
自動車でぶつかれば歩行者数名が死亡することもある。
発電所には大量エネルギーが集中していて,危険を内在しているものなのである。
固体である石炭は燃焼に関しては安全性は高い。水で消すことができることも安全性を高めるが,
有害物質を大量に放出するので,やはりやめた方が良い。
100万kw程度の発電所ならば,安全のためにはどの発電方式でもも30kmぐらい離れた方が良いのかもしれないとも思う。
参考文献
[1] http://en.wikipedia.org/wiki/New_London_School_explosion
[2] http://www.silive.com/news/index.ssf/2013/02/40_years_ago_today_staten_isla.html
[3] http://en.wikipedia.org/wiki/San_Juanico_disaster
[4] リー・N・デービス:LNGの恐怖(LNG研究会訳), 亜紀書房, 1981.
(Lee Niedringhaus Davis, Frozen fire, Hurting Publishers, Edmonton, 1979.
(Frozen fireだけでamaozonで古本を買ったとき,同じタイトルの小説だったことがあったので注意)),
(日本語版は日本のことについて補足されている)。
Yukihiko Yamashita (yamasita@ide.titech.ac.jp)