まず,放射能除去装置から説明する。原子力の燃料は基本的にはウランである。 ウランは半減期は長いが放射性物質であり,自然界に存在している。 ウランの崩壊による直接の被爆は少ないが,その崩壊過程で気体のラドンになる。 このラドンは放射性物質であり,気体として部屋にたまり被爆を引き起こす。 日本では毎年平均1mSvであるが,北欧などでは毎年平均8mSvぐらいの被爆を引き起こす。 また,場合によっては毎年50mSv被爆する家もあり,毎年20mSv程度被爆する家では, 家の換気を良くしたり地下からラドンが入りにくいようにする改修勧告が出るとのことである。 ウラン鉱石などのウラン濃度が高い土は,長期的には侵食などにより運ばれ, 一般の人が住む場所に拡散し,人が被爆することになる。 原子力がウランを消費することによって,この被爆を防ぐことができる。 そして,原子力によって生じる放射能は高レベル廃棄物として埋設する。 高レベル廃棄物の放射能は,半減期が短いため,ウランおよびその崩壊過程を含めた放射能より, 1万7000年程度で小さくなる。 したがって,1万7000年程度の閉じ込めができれば原子力発電は, 半減期を短くすることによる放射能除去装置であると言うことができる。 また,例えば地表深くの天然のウランを高レベル廃棄物のように, 地下深く生めればより被爆を減らすことができる。 したがって,長期的には減少した放射能以上に, 一般の人々の被爆を減らすことができる。 ウラン採掘時に作業員が被爆する可能性があるが, 少なくとも先進国では基準に則った作業であり, 産業のリスクとしては大きいものではない。また,一般人に対する被爆とは別物である。
また,原子力発電以外の発電方式でも放射能を放出する。 石炭に含まれる放射性物質の濃度を文献[2]から引用する。
平均 最小 最大 ウラン 1.6 0.5 4.5 トリウム 2.0 1.2 3.3単位はppmである。 金属系廃棄物はボトムアッシュやフライアッシュ(灰)として, 発電所の近くに埋められたり,セメントに混ぜられて建材になる。 埋めるといっても地下に埋めるわけではない。そのまま置いておくだけである。 建材は場合によっては建物に使われ,生活圏のすぐそばまでやってくる。 年間200万トン消費される石炭の灰は年間20万トン程度になり, 年間3.2トンのウランが放出される。 その灰の中のウランの濃度は16ppmとなる。 これは,地殻平均1ppmの16倍程度の濃度であり, 200ppmあればウラン鉱石として採算に乗るという点から考えれば。 16ppmはかなり高い濃度である。 埋めた場合も,将来,その上に家を立てたりすれば被爆の原因になる。
次に太陽光発電と比べてみる。太陽光発電で原子力発電ほどの電力を得るためには, 膨大な設備が必要であり,シリコンや鉄などを消費する。 文献[1]によれば,その製造のために太陽光発電では, その発電量の3%程度の発電量を石炭火力で発電したときの石炭を消費すると見積もっている。 この場合, 太陽光発電は, 0.096トン程度のウランを放出することになる。
次に,文献[1]の原子力発電と石炭発電からの放射性廃棄物の長期にわたる影響を示す。 この数は1年間100万kwの発電所を稼働させたときに, 排出する放射能がもたらす被爆による死者数の推定値である。
死亡者数(人) 500年 最終的 原子力 高レベル廃棄物 0.0001 0.018 ラドン放出 0.00 -420(-2.3) 通常時の放射能 0.05 0.3 低レベル 0.0001 0.0004 石炭 ラドン放出 0.11 30 太陽光 ラドン放出 0.0033 0.9ウランによる被爆の死者数は次のように算出している。
アメリカにおける平均的ラドンの被爆は2mSv、1mSvあたりのガンの発生確率は4万分の程度。 これは、地下1m程度に存在する6,600万トンのウランが大きく影響している。 これは侵食されるまでの22,000年程度まで影響する。 従って、ウランを1トンを消費すると3.3人の人が助かることになる。 原子力発電所を1年動かすためには,ウラン180トンが必要。 ウラン採鉱によってウランが生活圏に入り込まないことにより,420人が助かる。
高レベル廃棄物に関しては,ガラス固化などの対策を考慮せずに, 単に地中にあるものが表面に出てくる平均確率から計算されていて, ほんとはもっと低いと考えられる。 また,ウラン消費によってラドン放出が減ることによる死者の減少は, [1]では,180tのウランを消費するとして計算しているが, 実際に消費するウランは1t程度なので, 括弧の中でラドン放出によるマイナスの死者を1/180倍としている (残りは劣化ウランとして残される)。 このように,原子力発電はウランを消費することにより, 将来的な被爆を減らすことができる,放射能除去装置と言えるのである。 そして,石炭火力はもとより太陽光発電の方が原子力発電よりも, 長期的には,排出される放射能による被爆が原因で,死亡する人数が多いのである。
原子力の高レベル廃棄物の長い半減期が問題にされるが, 石炭火力で永久に消えない毒物を垂れ流している。 例えば,砒素やカドミウムなどは元素で毒性・発がん性があり, 特に,砒素やカドミウムは、閾値のない発ガン性物質と考えられている。 すなわち,1原子でもガンを引き起こす可能性を考える必要があるされている。 そして,存在期間に関しては放射能より状況は悪く,元素であるので永久になくならない。 文献[2]より,アメリカ産の石炭に含まれる有害物質の濃度を引用する。
平均 最小 最大 ひ素 14.02 0.5 93 ベリリウム 1.61 0.2 4 カドミウム 2.52 0.1 65 水銀 0.20 0.02 1.6 鉛 34.78 4 218 アンチモン 1.26 0.2 8.9 ウラン 1.6 0.5 4.5 トリウム 2.01 1.2 3.3 塩素 1,400 100 5,400単位はppmである。 先に述べたように,100万kwの石炭発電所は年間に200万トン以上の石炭を消費するので、 平均的な石炭は,1年間に毒性の元素をひ素を30トン,カドミウム5トン, 鉛70トン,水銀0.4トン放出する。 金属系のものは灰として発電所の近くに埋められる。 繰り返すが,埋めるといっても地下深くに埋めるわけではない。そのまま置いておくだけである。 また,小さい粒子や気化するものは,脱硫装置,脱硝装置,集塵機に補足されるか, 煙突から排出される。補足されたものは再利用されるか産業廃棄物となる。 それは,生活圏にやってくるか地表浅く埋められる。
文献[1]の石炭火力の廃棄物の長期に渡る影響を示す。 この数は1年間100万kwの発電所を稼働させたときに, 排出する放射能がもたらす被爆による死者数の推定値である。
500年 最終的 石炭 化学的発ガン物質 0.5 70 太陽光 化学的発ガン物質 0.015 2.1化学物質による影響は,原子力発電の高レベル廃棄物よりも大きい。 しかも,永久に毒性がなくならない元素による影響である。 この他にも,火力発電所には次に述べる大気汚染の影響を考える必要がある。 もちろん,原子力発電でもその建設に鉄が必要で製造のために石炭を使うが, 高々数十年で数万トン程度であり,年間200万トンを使う火力発電所よりははるかに少ない。 ただ,石炭の消費量が石炭火力の1000分の1としても, その影響は高レベル廃棄物による被爆の死者よりも多いことになる。
高レベル廃棄物の問題が取り沙汰されることが多いが,
これは本当はたいした問題でないことが分かる。
東京に原子力発電所を設置することは地盤の関係で無理であるが,
高レベル廃棄物は東京の地下に埋めてはどうかと思っている。
本当は,経済的な面から海洋投棄が良いのであるが,それは当面無理そうである。
長期的な影響に関して,CO2の影響に関して考えることが必要であるが,
これは項を改めて書きたいと思う。
この後,短期的な安全性,経済性に関して書いていく予定である。